新しい朝はこんなにも

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ーー家に帰ってくるなり、俺は自分の部屋に戻った。 ひどい頭痛と焼けるような胸の痛みに苛まれ、倒れるようにベッドに突っ伏した。 「ぴゃあ」 眠れずに時間が過ぎていく真夜中、不意に、ケージを叩く音がかちゃかちゃと部屋に響いた。 ノラが俺を呼んでいるらしかった。 「ノラ、静かに寝なさい」 「ぴゃあー」 「ノラ」 「ぴゃあーー」 溜め息を吐いて、のろのろとベッドから起き上がる。 ケージの中で鳴いている聞かん坊のところへと歩み寄った。 「なに、眠れないのか?」 ケージの隙間に指先を入れ、眉間を擽ってやる。 ノラは気持ち良さそうに目を細めながら、俺の指先に触れようと前足を上げた。 柔らかい肉球が、人差し指を挟み込む。 暫くしたいがままにさせてやって、頃合いを見てケージから離れようとした。 けれどそうすれば、ノラはまた頻りに鳴いて俺を呼んだ。 ケージの隙間から、離れる俺に向かって懸命に前足を伸ばした。 「…どうしたんだよ」 怪訝になりながら問い、見兼ねてケージの鍵を外した。 扉を開けば、ノラがさっと飛び出てくる。 「ぴゃー」 飛び出したノラが向かった先は、俺のベッドの上だった。 ごろごろとシーツの上を転がり、腹部を見せる。 「ぴゃー?」 その体勢のまま、また何度も俺を呼ぶ。 一緒に寝ようと、誘っているようだった。 「ぴゃ! ぴゃ! ……ぴゃ…」 ベッドに戻って一緒に寝転べば、ノラは安心したように目蓋を閉じた。 あやす間も無く眠りに落ちていく。 独りで寝るのが嫌で愚図っていたんだろう、随分な甘えん坊に育ててしまった。 けれどそう考えてすぐ、ノラに甘えているのは自分なのだと気付いた。 寄り添ってくるノラを腕の中に抱いて毛布に包まっていると、気分が落ち着いた。 誰にも…一番近くの存在にも理解されない孤独を、少しだけ忘れられるような気がした。
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