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夜と見紛うような早朝の中、病院へと車を走らせる。
半ばまで来て何気無く確認した時刻は、まだ6時を過ぎたばかりだ。
…容態が不安定な患者がいるわけでもないのに、こんなに早い時間から出向いて何をしようと言うのか。
ハンドルを握ったまま、明からさまに不自然な自分の行動に呆れて、溜め息をひとつ吐いた。
……一色纏との会食から数日。
俺はあの日から、那月との距離を見失っていた。
上手く顔が見られなくなった、上手く話が出来なくなった。
あれだけ心の拠り所にしていたのに、今は彼の存在を感じることがひどく苦しかった。
”この人も他の人間と一緒で、一色纏を見抜けなかった”
その事実が頭に焼きついて取り払えないせいで、まともに彼を直視出来ないでいた。
職場のスタッフや患者が一色纏を慕っても平然とした態度で接することが出来るのに、それが那月だと、途端にぎこちなくなって理不尽に避けてしまう最低な自分がいた。
この早過ぎる出勤も、朝食をとらないための行動だ。
…もっと正確に言えば、那月との接触を極力避けるためだ。
いつもどおりに朝食を準備して俺を待っていてくれて、穏やかな雰囲気の中で軽く談笑しながら彼の作った朝食を食べる。
その優しいひと時から逃げ出すためだった。
(那月…、俺が避けていることに気付いてるのかな…)
…だけどこの数日の俺の露骨な態度にも、この不自然極まりない早朝出勤にも、那月は言及してこなかった。
何も言わないということは、気付いていないのかもしれない。
目が合えば思わず緊張してしまうあの見透かすような瞳も、実は案外、何も映していないのかもしれない。
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