新しい朝はこんなにも

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「わぁーまだ全然大丈夫じゃなさそうだね」 状況が呑めずにぼんやりとしている俺の顔を覗き込みながら、福留さんはにこやかな表情で言った。 そこでようやく自分が横になったまま目上の人間を迎えている状態に気付いて、急いで身体を起こそうとした。 「いいよいいよ。いきなり身体を起こしたらぶり返しちゃうから」 そんな俺を、福留さんは優しく制止する。 そして俺に楽な状態を勧めながら、自分自身はベッドの側に立ったまま話を始めた。 「香月くんね、廊下で倒れたらしいんだよ。とうとうって感じだったね。ここ最近ずうっと顔色も悪かったし」 心配してたんだよーと、毛布の上からぽんぽんと俺の身体を叩く。 「…ご迷惑を、おかけしました…」 面目無い気持ちになり、視線を落とした。 寛容に微笑まれると却って申し訳なくなった。 体調を崩して意識を手放すまでの過程もその瞬間の周囲の騒めきも、朦朧としてはいたが記憶に残っているから。 「お礼なら一色くんに言ってあげて。君をここまで連れて来てくれたのは彼だから」 「……一色先生が…」 「そうだよ」 怠く開いた目を微かに大きくする俺の表情を見て、福留さんは頷いた。 「彼がすぐに君の身体を支えてくれなかったら頭を強く打ってたかもしれないんだ。余計な怪我をせずに済んで良かったね」 安心したように溜め息を吐き、自らの後ろで慎んで立っている一色纏に振り向く。 「君のお陰だ。迅速な対処をありがとうね、一色くん」 「いえ。僕は当然のことをしたまでです」 福留さんに改めて礼を言われた一色纏は、控えめに笑みを湛えて小さく頭を下げた。
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