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「……可哀想、だって?」
優しげに細めた目でこちらの容態を見つめている一色纏の言葉に、俺は激しい憤りを感じた。
「いい加減にしろ…!」
吐き気や頭痛を顧みず、身体を起こす。
怒りに任せて、一色纏の襟元に掴みかかった。
「誰の…、誰のせいで! こんな…っ!」
「僕のせいでしょうね」
一切の遠慮も加減も考えない剣幕で詰め寄る俺に、一色纏は涼しい表情でさらりと答えた。
その他人事のような態度が、俺の怒りをさらに煽る。
ここまで追い詰めた張本人の癖して、当事者でもなんでもないとでも言いそうな淡白な表情で見下されるのが、とにかく悔しくて腹立たしかった。
「あなたがいなければ、俺は…、……っ」
激しい感情が、衰弱した身体の許容を越える。
ひどい眩暈にくらりと視界が歪み、目と鼻の先にいるはずの一色纏の表情がぼやけた。
「うぅ…っ」
再び襲い来る気分の悪さと頭痛に、顔を上げていられなくなって目蓋を伏せる。
必死で掴みかかった手のひらからも、力が抜けていくのを感じた。
「そう…。全て僕が仕向けたことです」
締め付けられた首元が緩まると同時に、一色纏は再び口を開いた。
力無く握り締めたシャツから手のひらが落ち、それでも未練がましく胸元に爪を立てようとする俺の手に、自らの手をそっと添える。
「……ですがね、院長。忘れないでいただきたい」
そして俺の両手のひらを捕らえると、強引にベッドへと縫い付けた。
目まぐるしく切り替わった視界に酔い、弱った脳が揺さぶられて激しい吐き気が込み上げる。
「この条件を呑んだのは、紛れもなくあなたでしょう?」
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