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「僕が怖いですか?」
継続的な刺激が、ぴたりと止んだ。
けれど安心する間も無く身体を反転させられる。
強引に仰向けにされ、俺は自分をずっと背後から責め立てていた一色纏と向かい合った。
「院長、あなた僕に言いましたよね?」
攻める手の全てを止めた一色纏が、ずっと閉ざしていた口を開いた。
「秘密と引き換えに望む対価を支払う、と」
冷淡な視線が俺の顔を覗き込むように見下ろす。
逸らそうとすれば、顎を掴まれ無理やり顔を向けさせられた。
「だから僕はあなたの恋人になりたいと言いました。でも、嫌なら取り消していいとも言いましたよね?」
「それは……っ」
「だけどあなたは了承したではありませんか。わかりましたと、頷いたじゃないですか」
言質を片手に、一色纏は厳かな口調で俺に問い質す。
耳を塞ぎたくなるが、手のひらは自由が奪われている。
目を逸らすことも出来ない。
叩き付けられる苦しい言葉を、受け容れるしかない。
「下種な言い方ですが。今のあなたは僕に、嫌だやめてと拒絶出来る立場ではないでしょう」
「………」
「僕には約束を守らせておいて自分は、だなんて。いくらなんでも虫が良すぎるのではないですか?」
度重なるあらゆる疲労が、気力を蝕んでいく。
息の詰まる状況で耐えず心身を圧迫され続けて、もう、気が壊れそうになった。
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