新しい朝はこんなにも

236/295
前へ
/888ページ
次へ
「僕が怖いですか?」 継続的な刺激が、ぴたりと止んだ。 けれど安心する間も無く身体を反転させられる。 強引に仰向けにされ、俺は自分をずっと背後から責め立てていた一色纏と向かい合った。 「院長、あなた僕に言いましたよね?」 攻める手の全てを止めた一色纏が、ずっと閉ざしていた口を開いた。 「秘密と引き換えに望む対価を支払う、と」 冷淡な視線が俺の顔を覗き込むように見下ろす。 逸らそうとすれば、顎を掴まれ無理やり顔を向けさせられた。 「だから僕はあなたの恋人になりたいと言いました。でも、嫌なら取り消していいとも言いましたよね?」 「それは……っ」 「だけどあなたは了承したではありませんか。わかりましたと、頷いたじゃないですか」 言質を片手に、一色纏は厳かな口調で俺に問い質す。 耳を塞ぎたくなるが、手のひらは自由が奪われている。 目を逸らすことも出来ない。 叩き付けられる苦しい言葉を、受け容れるしかない。 「下種な言い方ですが。今のあなたは僕に、嫌だやめてと拒絶出来る立場ではないでしょう」 「………」 「僕には約束を守らせておいて自分は、だなんて。いくらなんでも虫が良すぎるのではないですか?」 度重なるあらゆる疲労が、気力を蝕んでいく。 息の詰まる状況で耐えず心身を圧迫され続けて、もう、気が壊れそうになった。
/888ページ

最初のコメントを投稿しよう!

857人が本棚に入れています
本棚に追加