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手首を噛む俺の行為に気付いた一色纏は、両手を使って力づくでそれを制止した。
手首を掴んで歯から引き離しつつ、俺の口元を封じるように強く手を充てがった。
「自傷は駄目だと、言ったでしょう…!」
「んん、んー…!」
口を押さえ付けてくる手の下で、言葉もまともに形取れない中声を上げる。
自分の精神の均衡を護るための最後の方法も抑制され、俺は自棄になったように身を捩った。
「ーー…っ」
けれど何一つびくともしない状況に、疲弊ばかりが募っていく。
元々過労で倒れるほどに弱っていた身体から、体力や気力がさらに失われていく。
疲れて動けなくなり、為す術なく制圧されるまで、もう時間の問題だった。
「………」
声も出なくなって、力無く横たわる。
ベッドの上には、もう身体のどこにも力が入らず、小さく呼吸するしか出来ない弱い自分がいた。
「興醒めです」
冷めたような声が降る。
その瞬間、覆い被さっていた一色纏が俺を解放した。
「まぁ元より、病人相手に盛るつもりもないですけどね」
手首を拘束していたネクタイを解く。
次いで捲し上げていたインナーを正し、外したボタンの全てを留め直した。
丁寧に掛けられた毛布に、無防備な身体が包まれる。
乱したもの全てを元に戻し、安静の場を作り直した。
「今回は僕がお譲りしましょう」
一色纏はベッドの側に立ち上がって改めて俺を見下ろした。
「ですが僕も、これ以上はお預けをくらいたくありません」
そして俺の顎元を指先で捕らえ、厳しい表情ではっきり言い聞かせるように言葉を続けた。
「最後に3週間だけ猶予をあげましょう。しかしそれ以降は僕の好きにします。
もうあなたの気持ちが定まるのを待つつもりはありませんので」
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