新しい朝はこんなにも

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「おかえり」 帰って来た家には、既に那月がいた。 迎えに来るなと拒絶されたから、せめて家で待機していようと早々に仕事を切り上げてくれたのかもしれない。 「ただいま」 そこまで想像しているのに、俺は心配して傍に来た那月をあしらうように視線を逸らした。 「何で電話切っちゃったのさ。掛け直してもちっとも出てくれないし」 「運転中なんだから出れないだろ」 「切られて直ぐにかけ直したんだけど」 「バッテリーなくなりそうだったんだ」 その場その場で適当を言っているのが分かったのか、那月は明らかに不服そうな表情をしてみせる。 けれど俺はそれすらも見ないふりをして、自分の部屋へ帰ろうとした。 「待ちなよ」 場を離れようとする俺を、那月は制止した。 「なんだよ。疲れてるのに」 煩わしげに返事をするが、那月は引く素ぶりを一切見せない。 「まだ話は終わってない」 「これ以上何を話すんだ」 「何で僕が迎えに行くのを嫌がったの」 「大の大人が身内に職場まで迎えに来てもらうなんて恥だろ、倒れたくらいで」 引き留めようと肩に置かれた手を払いながら、溜め息混じりに言う。 「倒れたから言ってるんだよ。今回は無事だったから良かったけど、そんな状態で車なんか乗って事故でも起こしたらどうするのさ」 「じゃあ起こさなかったんだからもういいだろ」 「何をそんな意固地になってるの? 何かあるならちゃんと言いなよ」
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