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”公園を抜けよう”
そう言いながら歩む那月に連れられて、俺は公園に足を踏み入れた。
公園には大きく広いアスレチック遊具があるが、朝も早いからか子供はまだいない。
時折ジョギングしている人や犬の散歩をしている人を見かけるくらいで活気はなく、とても静かな空間になっていた。
(…なんで公園?)
後に続きながらも、怪訝になって首を捻る。
最寄りのコンビニに行くのに何もこんな所を通る必要はない。
これじゃあかなりの遠回りだ。
「朝だし、ちょっと冷えるねー」
「……」
「コンビニ行ったらコロッケ買おうよー」
「……ああ」
遠慮がちな生返事を繰り返す。
咄嗟の誘いに断れないまま着いてきてしまったが、正直今は散歩をする気分じゃない。
何より、久し振りの彼とのひと時をどう過ごせばいいのか分からなかった。
分からず、取り戻した枕カバーを抱きながら俯き、所在なく歩いていた。
「兄さん、上見て。上っ」
そうしてずっと味気ない地面を眺めていた俺に、那月は顔を上げるように促す。
言われるがままに伏せていた顔を上げれば、公園を飾る樹々に花が咲いているのが見えた。
頭上を横切って伸びる、枝先を飾る小さい花。
咲いているのは、白い桜らしかった。
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