新しい朝はこんなにも

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ーーからん、と、木の枝が地面に落ちる音が聞こえた。 「終わったよ」 那月の声に、俺は埋めていた顔を上げる。 腕の中にいたまま、おずおずと首を捻った。 一体どんな芋虫が自分の背中を這っていたというのか、ほんの少しの興味と共に後ろを振り返った。 「……ん?」 けれども、那月が使っていたであろう木の枝にもその周囲にも、芋虫らしきものは見当たらなかった。 「……は…?」 暫く念入りに辺りを見渡した後、ぽかんとして間抜けな声が零れる。 「……おまえ、まさか…」 「……」 自分の反応に既視感を覚えた。 全てを察し、那月の顔を見る。 那月は必死で笑いを堪えていた。 「ふざけるな! おまえふざけるな!」 自分を抱き寄せていた身体を思いっきり突き飛ばす。 沸き立つ怒りと恥ずかしさに、俺は顔を真っ赤にして声を荒げた。 「ばーかーばーか、偏差値詐欺ー」 「うるさいうるさい馬鹿! いい加減にしろ!!」 後ろから倒れないよう受け身を取りつつも、余裕の態度で俺を煽りながら数歩先を駆けていく那月。 「やーい鳥頭のくるくるぱーのモヤシっ子ー」 「待て!!」 おどけながら罵倒してくる彼をひっ捕らえようと走り出す。 それは恐らく、大人になってから初めての全力疾走だった。
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