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公園を抜けるまで走り、俺は軋む肺に荒く呼吸をして項垂れた。
耐えきれずに膝に手を当て、前屈みになってしまう。
「体力で僕に歯向かおうなんて100年早いよ」
腕が届くか届かないかの曖昧な位置から、那月は得意気に俺を見下してくる。
そんな彼の憎らしい笑顔を、俺は疲弊した表情で睨み付けた。
……一切息切れしていない様が、体力の差をとことん見せ付けてきているようで堪らなく腹立たしい。
「はい」
「……っ」
歩み寄ってきた那月が、屈み姿勢でいる俺へと手を差し出した。
「いい運動になったね。早くコンビニ行って家に帰ろう」
差し出された手をムッとして睨む俺に、那月は微笑む。
それを見上げていたら、もう争う気力もなくなった。
騙されて、追い付けなくて、捕まえられなくて、挙句紳士に手を差し伸べられた。
そして冷えた仲を温め直すきっかけすら与えられた。
俺は彼に、言い訳のしようもないほど負けてしまったのだ。
「ね、褒めてよ兄さん」
「……?」
俺の手を引いて歩き出す那月が、不意にこちらを振り向き笑って言った。
「僕、演技上手いでしょー」
それは子供のように無邪気で、自慢気な笑顔だった。
だけどとても、彼らしい笑顔だった。
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