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家に帰って来た俺たちは、数日振りにリビングという一つの空間で同じ時間を過ごした。
今朝まではあんなに居心地悪い場所だったのに、今は違う。
気兼ねないひと時がとても心地よくて、つい微睡みそうになった。
”……あとどれくらい、俺はこの幸せを真っ直ぐに感じていられるのだろう”
久し振りに隣り合った彼の傍で感じた安らぎを、密かに噛み締める。
告げられた約束の3週間目が近付く、その足音を背後に聞きながらーー。
「……那月」
「うん?」
思い切って声をかければ、那月は観ていたテレビから目を離し、こちらを振り向く。
柔らかい目が、瞬きをしながら俺を見つめた。
「どうしたの?」
「………」
……今なら、信じられる。
きっとこの人なら、話せば分かってくれるのだと。
一色纏とのことを塞ぎ込まずに全て打ち明ければ、きっと理解してくれるのだと。
「兄さん?」
優しい表情のまま問いかけ、俺の言葉を急かさず待っている那月。
それは今までずっとどんな言葉も悩みも受け止めてきてくれた、俺にとってただ一人の人の微笑みだった。
沢山の苦しみや不安の中から引っ張り上げてくれた、正義の味方そのものだった。
ーー…だけど。
「あの桜、綺麗だったな」
もういい。
もう、十分だ。
彼にその役割を押し付けるのは、もうおしまいだ。
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