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ようやく口を開いた俺を見て、那月は目を瞬いた。
拍子抜けでもしたのだろうか、少し、驚いているようだった。
「…そうだね、綺麗だったね」
けれど直ぐに解れて、柔らかい表情に戻る。
茶化すことも、深読みして問い質すこともせず、ただ優しく頷いて俺の話を肯定してくれた。
「ねっ、じゃあさ。4月になったら花見に行こうよ」
「花見…?」
「うんっ。三色団子は買うとして、弁当は自分たちで作ってさ。満開の桜でいっぱいの所に行って一緒に食べようよっ」
きっと、行って良かったって思えるから。
楽しい思い出になるから。
笑って言いながら、那月は無邪気に計画を練る。
企画倒れなんて考えず、ひたすらに楽しそうに、俺との時間を約束しようとする。
「……ああ、そうだな」
その笑顔を見ていると、微かに視界が滲んだ。
ずっと見ていたいはずなのに、どうしてか上手く輪郭を捉えられなくなった。
「暖かくなったら、一緒に行こう。きっと…」
子供っぽくて愛くるしい、それでいていつも、大人の安心感で優しく包み込んでくれた。
その愛しい人の姿に、痛いほど込み上げてきた強い感情。
擦れて、塞いで、見失い続けて。
ようやく辿り着いた、ひとつの願い。
笑っていてほしい。
これからも、この先もずっとずっと。
どうか変わらず、何ものにも脅かされることなく。
あなたには、笑っていてほしいと思うんだ。
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