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今日も自分の病院を支えてくれた医師である彼に、労わいの言葉をかける。
すると彼…、一色纏は体のいい笑みを浮かべた。
「お疲れさまです。院長」
勉強のためにと、いつも閉館まで図書室に白衣のまま居残っている一色纏。
そんな彼が、今日は直ぐに帰れるようにスーツに着替えていた。
そしてその意味を知っている俺もまた、スーツを着て帰る準備を終えていた。
「迎えに来ました」
ワインレッドのカーペットを踏みこちらへと歩み寄って来た一色纏が、一歩も動かない俺の頬にそっと手を添える。
「ようやくですね。…待ちくたびれましたよ」
肌をゆっくりと滑る手のひら。
こんな風に接触されるのは久し振りだった。
「……」
撫でられるその感触を、俺は表情を変えないまま黙って受け入れていた。
その様子を見て、一色纏はくすりと笑みを落とす。
そして一度俺から離れ、部屋のカーテンを閉ざすと、
「さぁ、出ましょうか」
持ち前の柔らかな口調と表情で、俺に微笑んで言った。
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