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ーーエレベーターを降り、マンションの廊下を進む一色纏の背に続いて歩く。
彼はひとつの部屋の前で足を止めると、その扉に当たり前のように鍵を差し込んだ。
「さぁ、上がってください」
がちゃりと扉を開き、俺を部屋の中へと招き入れる。
必要最低限の靴だけを出し、それをきっちり端に並べている玄関。
タイルには砂や石くずは無く、掃除したてのように綺麗に保たれていた。
「好きに寛いでいてくださいね」
通されたリビングで所在無さげに佇む俺に声を掛け、一色纏は背広を脱いでカウンターキッチンへと入った。
一息吐く間も無く手を働かし始めた一色纏。
そんな彼を一瞥してから、俺は敢えてソファを避けてアイボリーのラグに腰を下ろした。
どこか落ち着かない気分が燻り、紛らわすように辺りを見渡す。
家具は必要最低限に留めているようなのに、趣味なのかインテリアにしては観葉植物が多いのが印象的だった。
「冷めないうちにどうぞ」
暫くしてキッチンから出てきた一色纏が、じっと座っていた俺の前のテーブルにティーカップを置いた。
傍らに角砂糖が詰まった透明のシュガーポットも添えられる。
「ホットレモンティーです。レモンの砂糖漬けを使って作りました」
にこりと微笑んで言いながら、一色纏もようやくテーブルの前に座る。
自分の部屋で自分の物であるソファもあるのに、彼が腰を下ろしたのは俺と同じラグの上だった。
「紅茶とレモンにはストレスを軽減する成分があります。不安や緊張が解れますよ」
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