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独りにされて、暫く。
目の前にはテレビのリモコンが置かれているが、とても観る気にはなれない。
代わりに視界に映したのが、横長の棚の上にずらりと並んでいる観葉植物だ。
中でも目に付いたのが、小柄な丸サボテンの鉢植えだった。
サボテンという種は刺々しいというイメージだったが、その鉢植えの丸サボテンは違った。
白い綿毛のような物に丸い全体を包まれていて、触っても全く痛くなさそうだった。
(……花が咲いてる)
立ち上がって観察していたときに見つけた、小さくて白い花。
形も種類も全く違うのに、眺めていると、あの時公園で見た桜を思い出した。
上を見ろと、那月に促されて見上げた桜。
もう1週間以上も経ったのに、まだはっきりと憶えている。
寄り添ってそれぞれ咲く白色の桜も、枝の亀裂から見えた青空も。
隣で一緒に見上げてくれた、那月の笑顔も。
色鮮やかに、全部ーー…。
「その子はマミラリア種の白星くんです」
「……!」
不意を突いて聞こえた声に、俺は観察に覗き込ませていた顔をぱっと振り向かせた。
その先には、風呂から出て来た一色纏が立っていた。
「ちょうど今頃が開花の時期なんです。可愛い花でしょう?」
髪を拭いたタオルを肩に掛け、風呂上がりで火照った顔で柔らかく微笑む。
「……。そうですね」
俺は彼から顔を背けて、再びサボテンを見つめた。
「とても、可愛いらしい花だと思います」
彼を見ず、ただ事実だけには同意した。
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