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こんな風に組み敷かれるのは、何度目だろうーー。
ベッドの上に倒れたまま、自らに覆い被さる一色纏を仰ぎ見て考えていた。
こんなとき俺はいつも、不安と恐怖に苛まれて心の中で那月を呼んでいた。
「ここまで従順に振舞われると、さすがに困惑しちゃいますよ」
一色纏は手と手を絡める傍らで、再び俺の髪を梳く。
次いでその手を使って、上から順番にゆっくりとシャツのボタンを外した。
「…抵抗どころか、表情ひとつ変えないんですね」
何もせず、ただ触れられるままに肌を晒させられる俺を見下ろして言いながら、一色纏は残念そうに微笑んだ。
「良いんですよ、助けを呼んでも」
淡々と自分を傍観してくる俺の頬を、そっと撫でる。
言い聞かせるように、静かな声で言った。
「この前のように、弟さんの名前を呼んだっていいのですよ」
宥めるような声色で、けれど詰めるように言葉を重ねた。
それはまるで、俺の心の惑いを探っているかのようだった。
「必要ありません」
だから俺は、はっきりと言った。
「私はあの人に助けられたいんじゃない。あの人を守りたいんです」
あなたが探している惑いなどどこを探してもないのだと、強く表明した。
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