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「…だから、自分が犠牲になる道を選ぶと?」
惑う様子を見せたのは一色纏の方だった。
無言で眉をひそめ、表情を曇らせて俺を見つめた。
「元より私が撒いた種。ならば刈り取るのは私の役目です」
あの人は。
那月はいつも俺の心を守ってくれた。
壊れたり、自分で自分を傷付けないように、いつも俺の手を取って支えてくれた。
「その役目を果たせるのならば、喜んであなたの望むままの姿になりましょう。
あなたを、弟の未来には絶対触れさせない」
俺はいつも那月の優しさに包まれていた。
沢山の恐怖や不安を、何でもないように蹴散らしてくれた。
守られていると感じられたから、彼の傍に寄り添っているといつも安心出来た。
だけどもう、守られるばかりの自分ではいたくない。
寄り掛かかるばかりの自分は、嫌だ。
彼が自分を守ってくれたように、彼を守れる自分になりたい。
例えそれが、どれだけ歪な形だとしても……。
「……悲劇的な物語ですね」
笑うでも貶すでもなく、一色纏はぽつりと言った。
俺を見下ろす眼差しはどこか物憂げで、同情的なものにすら見えた。
「私はちゃんと、私の意志でここにいる」
俺は彼の憐憫的な言葉を受け取らなかった。
「大切な人を守れるなら、私は今を悲劇だと思わない。
もう自分の境遇を不幸だと、嘆いたりだってしない」
”どうか那月が、ずっと笑っていられますように”
「あなたと添い遂げるこの身で証明しましょう。
私があの人から得た幸福は、決して私を脆くさせるばかりではないのだと」
その願いを胸に強く抱き締めながら、俺は目を逸らさず、毅然とした態度で一色纏に言い放った。
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