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「そうですか」
俺の答えを聞いた一色纏は、安心したように微笑んだ。
そしてそれ以上、その話を掘り下げることもしなかった。
「僕たちはね、賭けをしたんです」
一度伏せられた目が、再び俺を見つめる。
「僕は自分が幸せになることを。あの人はあなたが幸せになることを。一人の男として賭けたんです」
細めた目や言葉は優しく、けれども背中を押すような力強さだった。
「院長、あなたは何に賭けますか?」
ーーカップの中のホットレモンティーは、既に温くなっていた。
けれど味は変わらず、喉に通せば心が落ち着く。
これから家に帰る俺の、最後の緊張と不安を解してくれたーー…。
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