新しい朝はこんなにも

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「……分かってる」 詰めるように言葉を重ねる彼に、俺は静かに頷いた。 「お前があのとき、”俺次第だ”って言った意味が今なら分かるんだ。 俺がちゃんと向き合えば、きっとあの人と幸せになれるんだと思う…」 ちゃんと向き合えば。 色々なものを一緒に見て触れて、共有して感じられる関係になれたのだろう。 大切にされながら、本物の恋人になれたのだろう。 だから彼は望むのだ。 俺が一色纏と共に在る道を選ぶことを。 その道の先にあるのが幸せであることを確信しているから。 その幸せに向かって進んでほしいと、彼は俺に望むのだ。 「……だけど」 ーーだけど、俺は。 「俺は…、自分の幸せは自分で決めたい」 敷かれた道を歩くだけではなく、勧められたから言う通りにするのではなく、手渡されたから受け取るのではなく。 自分で道を選んで、歩いて、幸せを見付けたい。 たくさん踏み外すかもしれない。 泥まみれになって、傷だらけになるかもしれない。 なんなら、どれだけ手を伸ばしても結局望んだ幸せは手に入らないのかもしれない。 それでも俺は、自分で決めて目指したい。 一人の人間として、生きていたい。 人形のように生きるのは、もう終わりにしたい。 感情は殺すためにあるのではなく、動かすためにある。 あなたとの日々が、そう教えてくれたから。
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