新しい朝はこんなにも

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「ひどくして、ごめんね」 シーツを乱して身動ぎする俺の髪に、律動を止めた那月の手のひらが触れた。 「痛い? 兄さん」 「……っ」 優しい声に引かれて、ぐったりとして那月を見上げる。 「ぃたく、ない…」 彼の問いに、俺は肩で息をしながら答えた。 「ひどくない…」 何度も首を横に振る。 「嘘つき」 そんな俺に、那月は溜め息混じりに笑みを溢した。 困ったように微笑み、俺の頬をそっと撫でた。 「……嘘つきは、お前だ…」 「……ん?」 その手のひらの温度に、また視界が滲んでいく。 和めるような柔らかい触れ方に、胸が満たされていく。 「……俺は…、こんな優しい触れ方なんて…されたことない…っ」 痛くても、息が苦しくても。 それを気遣ってもらったことはなかった。 優しく頬を撫でられ、髪を梳かれ、背中をさすられ、抱き締められたことなんてなかった。 愛されているのを心から感じられる行為なんて、ずっと知らなかった…。 「……ごめん」 この人の愛情が痛いほど伝わってくる。 「ごめんな」 この人に愛されて、本当に幸せを実感している。 「ごめんな…っ」 だからこそ、苦しい。 だからこそ、今になって罪悪感に駆られる。 祝福されない関係に彼を繋ぎ止めることを、堂々と恋人として振る舞えない関係を強いることを。 誰にも赦されない関係に引きづりこんでしまったことを。 「好きになって…ごめん…っ」 一番大切な人を幸せな道へと手放せなかった自分を、呪ってしまう。
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