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着替えて、顔を洗った。
そしてリビングへ出たとき、不意にベランダが目に留まった。
「……」
おもむろに歩み、窓を開いて外へと出る。
自由に駆ける風が、ベランダに立つ俺の身体を優しく撫でていく。
その風の行く末を追うように、俺は青空を見上げた。
澄んだ朝の空気で呼吸しながら、晴天を仰いだ。
(……あ)
そのときふと、違和感を覚えた。
あんなにも近く、手を伸ばしたら届きそうに思えた空が。
今は遥か遠く、遥か高く。
どうあがいても届かない距離で揺蕩っているようにしか見えなくなっていたからだ。
「……そっか」
けれど直ぐに、納得した。
これでいい、この距離が正しいのだと気付けた。
俺は何を勘違いしていたのだろう。
最初からそうだったんだ。
空はいつだって、誰にも届かない高い場所にしかなかったんだ。
だから人は皆、地に足を着いて生きているのだろう。
誰かと出逢い、寄り添いながら。
誰も彼も、俺自身も……。
ーー憑き物が落ちたような、とてもすっきりした気分になった。
なんだろう、なんというか。
長い長いリハビリ生活を、終えたような気分だ。
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