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「ぴゃあ!」
ベランダにいる俺の背後から、元気な鳴き声が聞こえてきた。
「ぴゃー!」
振り返れば、部屋の中からノラが呼んでいた。
「ノラ」
「ぴゃあー!」
窓の境界を踏み越えて外に出て来ようとするノラ。
その歩みを止めるように、俺は真っ黒な身体を抱き上げた。
「おまえ…、なんか重くなったな」
「ぴゃい!」
金色のビー玉のような丸い二つ目を見つめて、ふと感心する。
出逢った頃はまだ生後2ヶ月で、か弱くて、あどけない命だったのに。
小さい、軽いと思っていた子猫は、すっかり大人の猫に育っていた。
腕の中に感じるこの重みは、1年という歳月そのものだ。
一緒に日々を重ねて来た証そのものだ。
「……ノラ」
「ぴゃ?」
「俺、ちゃんと変われるかな?」
ーーもし、この1年を長いリハビリ生活だったと例えたなら。
それを終えたと実感したこれから先は、真新しい道を歩んでいくことになる。
俺は今、その道のスタートラインに立ったんだ。
「ぴゃあ!」
ぺちっと、ノラの前足が俺の頬を叩いた。
肉球を押し付けるような、柔らかいパンチを繰り出してきた。
「……ははっ」
何度も何度も頬にパンチをしてくるノラ。
その無邪気さと肉球の感触に、俺は思わず表情を緩めた。
とても自然に、笑みを溢してしまった。
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