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テストは記入出来たのが半分くらい。 そのうち確実に点数が取れると思われるのは更に半分くらい。 問題を見た時点でアウトだって分かったから、深く考えることはしなかった。 その分時間が余ったから数学の代わりに、七瀬のことを考えていた。 なぜ周りから『優しい』って言われているのか……。 何となく。 何となくだけど、さっきの件を通して分かった気がする。 え? カッターで消しゴムを半分に切ってくれたこと? うーん、それもあるけど…… 俺が 七瀬って優しいヤツだな って思ったのは言葉なんだ。 「消しゴムを使っても使わなくても、点数悪いからさ」 という俺の言葉に 『消しゴムを半分に切っても切らなくても、取れる点数に変わりはないよ』 と言ってくれた七瀬。 普通なら 「いいから使えよ」とか 「気にすんなよ」 だけだと思うんだ。特に男相手の場合。 ……だけど 俺の言い回しに七瀬が同じような言葉を選んで言ってくれたお陰で まだ新しい消しゴムを半分にさせてしまった。 俺のせいで彼に悪いことをしたな。 っていう後ろめたい気持ちを軽くしてくれたんだ。 そういえば先週の松井さんの件も 「松井さん、気にしなくていいよ」 って優しく声をかけていたっけ。 こういう“さりげない”言葉が、相手の負担に思ってしまう気持ちを和らげてくれると言うか。 きっと七瀬はどんな時でも自然にこういう言葉を添えているんだろうな。 チャイムが鳴った。 先生の指示で後ろから前へと答案用紙が集められていく。 そして“礼”が終わるとすぐに 「七瀬、ありがとう。 助かったよ」 と笑顔で感謝を伝えた。 七瀬は筆記用具をペンケースにしまっていたが、その手を止めて俺を見ると 「なら良かった」 と笑顔で返してくれた。
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