第1話 黒い人型

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1. 気が付くと、無機質な部屋に居た。天井には錆びた空調パイプが這い、床はコンクリート。 辺りは暗くその全てを把握する事は出来ないが、自分が座っている椅子以外に家具らしき物は何も無い様に見える。 唯一の光はこの部屋のドアから、その細い覗き窓から注がれ、舞う埃を照らしていた。 ドアにはノブが付いていない様だ。よく見ると、ドアの側に誰かが立っている。逆光でよく見えないが、シルエットは男。白衣を着て、右手に何かを持っている。その何かからこちらに目線を移し、微笑んだ様に見えた。 「貴方がサルベージされてから1週間。何か思い出しましたか?」 男にそう問われて、初めて気付いた。自分の名前。ここが何処なのか。何故ここに居るのか。自分の過去が、何一つ思い出せなかった。 動揺する少年を見て察したのか、返答を待たず男は続けた。 「1週間、長くて1ヶ月。そのくらい経てば、自分の型番や嘗ての愛称くらいは思い出せる筈です。先ずは記憶の修復が進むまで、この部屋を使って下さい。」 型番?愛称?記憶の修復?理解が追い付かなかった。訊きたい事は幾つもあるのに、上手く言葉にならない。 「あ、あの…」
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