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野村はやれやれという風に首を振ってベットに向く。
「兜さんは、君を引いた運転手の顔を思い出したかな。至近距離で見ていると思うんだが」
「僕は、逆光で見えませんでした」
「確かに距離があるときは逆光だが、轢かれる瞬間は違うだろ。こんな風に」
野村は、包帯から覗いた兜の目に顔を近づけた。
兜はぎょっとしたが、逃げることは出来ない。
「憶えていません」
「男か女かも?」
「ハイ……」
「この顔に記憶はない?」
野村は写真を取り出すと兜の目の前に差し出した。
「いいえ。全く知らない人です」
「あっ!」
千穂理が声をあげた。
「あなたは知っているようだね」
野村の目が光る。
「昨日、事故現場で私を見て逃げた人です」
「この男は、車の所有者なんだよ。残念ながら、あなたが見た女ではない」
野村の声には棘があった。
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