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悲鳴の中を、男の身体は地面に落ちてバウンドした。
死んだに違いない。千穂理の脳は確信した。
男を轢いた車は、男が宙で回転している間も加速して、その下を通り抜けた。
「逃げた……」千穂理は分かりながらも、ナンバープレートを見る余裕などなかった。
地面に落ちた男から目が離せなかったのだ。
しばらくしてから、遠くで急ブレーキの音がビルの谷間に木霊した。
街灯の下に赤いテールランプが見え、人が降りるのが分った。
ベージュ色のワンピース姿の女だった。
「大丈夫ですか?」
倒れた男に声をかけてから、大丈夫なはずはないと思う。
こんな時には、なんと声を掛ければいいのだろうと自問しながら、
恐る恐る地面に伸びている男の顔を覗き込んだ。
男の顔は地面にめり込んでいるように見えた。
アスファルトには血が流れていて、ピクリとも動かない。
やっぱり死んだのだと思うと、怖くなって視線を逸らした。
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