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「あ、やっと止まってくれたんですね。良かったぁ」
「あ……、ご、ごめ……」
謝罪の言葉は最後まで息が続かなかった。
満面の笑顔に、柔らかな陽光をきらきらと弾く瞳と、そして汗が、あまりにも、そう、あまりにも美しすぎたからだ。呼吸を忘れてしまうほど。だから、言葉も止まってしまった。
「その、実はわたし、今日の為に、服は全部おろしたての物で揃えてて……、その、靴も、ちょっと頑張って少しヒール高いのにして来てて……だから、その、は、走るのが怖くって」
無言になった僕を、穂乃果さんはどう思ったのか。ただ、今がチャンスとばかりに止まって欲しかった理由をもじもじとあせあせと言い淀みながらも一生懸命に説明しだした。
まずい。これはいけない。なんだこの可愛い生き物は!
僕と会う為に服を新調して来たなんて、その服たちに全力で謝りたくなるんですけど! こんなやつのためにごめんなさい!
「ここならゆっくり話せそう。ちょっと疲れちゃったし、そこのベンチに座りませんか?」
「はい!」
気づけば僕らは川沿いのちょっとした公園にまで来ていた。江戸時代、七里の渡しと呼ばれる船着場があった跡に作られた公園だ。大きな木造りの常夜灯がそびえ立ち、なかなかにいい風情を持っている。
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