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「――体験版は、ここまでです。ご利用、ありがとうございました。製品版の発売情報は――」
プシュ、とカプセルの蓋が開いた。途端に飛び込んでくる眩しい光に、僕は目を細めた。カプセルの横では、美女型アンドロイドが製品のアナウンスをしてくれている。
人ひとりをすっぽりと収めるこのカプセルは、VRカプセル社が開発した新製品だ。品名が社名なあたりに、力の入り具合がうかがえる。数々のVR機器がリリースされてきたが、これはかなり話題になった。いよいよ日本でもβテストが行われるということで、僕はさっそく体感すべく、今回の見本市に記者として乗り込んだのだ。
「どうでした、秋月先輩?」
カプセルから床に足を下ろすと、後輩がわくわくと目を輝かせていた。
「うん、良かった。凄いよこれ。価格も手頃だし、ベッドとしても使えるように改良されたから、狭いうちでも導入しやすい。これは売れると思うぜ。しっかし、完全に入っちゃったなー。帰ってきたくなくなるくらい」
実際、喪失感がもの凄い。あのままホノカとあっちで暮らしていたかった。こいつがいなければ多分泣いてる。
「ふむふむ」
と、後輩はデバイスでメモを取る。そして。
「わたしのことも忘れちゃった?」
などと、少し怒ったような、拗ねた声で聞いてきた。
「さぁね」
僕はとぼけて後輩の肩を抱く。
「さ、仕事仕事。次はどいつだ、穂乃果?」
「もう。先輩ったら、絶対仕事してないでしょ? 絶対なんにも考えずに楽しんでるー!」
まぁまぁ、と頭を撫でる。さらさらとした髪の感触とぬくもりに、僕は現実を認識した。
~ END ~
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