クオリア・コンバーター

3/16
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
「なんだろ、これ? 何か頼んでたっけ?」  部屋に上がると、僕はカバンをソファに放り投げて箱に貼られたラベルを確認した。ラベルには「差出人:高槻穂乃果」という、全く記憶にない名前がある。住所はどこにも記載されていない。品名は「精密機械」とだけ書かれており、中身を特定することは出来そうになかった。 「知らない女性からの謎の小包み。が、送り先は確かに僕んちだし、名前も僕で間違いない、か……。なにこれこわっ。開けたらドカン、とか。て、そんな恨まれるようなことしてないし。かといって、プレゼントもらうような心当たりも無い。どっちだろうが、僕がそんなんもらうほど、人と深く関わることなんて無いんだけど」  そろそろ三十も半ばになる僕だ。ここまで一人暮らしが長くなると、誰が聞いてくれているわけでもないのに、つい考えていることを声に出してしまうようになる。本当に長すぎる一人暮らしなので、もうその事に対して寂しいだの悲しいだの思うこともない。これが僕の自然な姿だ。つまり、そろそろ心が死にそうだってことだろう。会社と家の往復をしているだけで、特に楽しいことも悲しいことも起こらない。仕事はそこそこ出来るし、人間関係も悪くはない。なだらかで穏やかで平和そのもの。ただそれゆえになんの刺激も無い毎日を過ごしているのが今の僕だ。  だから。 「ま、いいか。開けちゃえ」  半ば思考放棄して、僕は小包みのガムテープをべりべりと剥がし始めた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!