クオリア・コンバーター

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 はたして、箱から出てきたものは眼鏡だった。太い黒縁フレームの、大きなレンズがはまった眼鏡。「?」とレンズを天井にかざして見たが、度は入っていないようだ。つまりは、伊達眼鏡ということだろう。僕の視力は両目ともに1.5なので、プレゼントにしても度が入っていては困ってしまうところだが。 「この眼鏡の弦についてるブランドマーク、見たことあるな。確かソリューション、とかいう……」  と、説明書か何か無いかと箱を見た僕の目は、たぶん凄くでっかくなっていたに違いない。普段は「線なの?」とか言われる僕の目だが、たまに見開くと裂けそうに痛くなるからすぐ分かる。 「な! 誰だ、この美人は!?」  箱の中には、僕の理想を具現化したような、黒髪の乙女の写真が入っていた。清楚なワンピース姿で照れたようにはにかんだ表情に、僕のハートは一瞬で撃ち抜かれた。ずきゅーんって音が聞こえたくらいだ。眼鏡などどこかに投げ捨てた僕は、代わりに写真を両手で掴んで鼻先にまで近づけた。まるで芸能人のブロマイドかと見紛うが如きに良く撮られた写真だ。僕は無意識に「ほはぁあうわあぁぁひぇえ」と、ため息なのか悲鳴なのか判然としないであろう声をひり出していた。  その時、視界の端にちらりと箱の底が映った。緩衝材をかき分けた奥に、なにやら手紙らしきものが見えたのだ。先の「誰だ」という僕の問いかけに神様が答えてくれたとしか思えない。普通に気づいていただろうこんな事象にも激しく感謝してしまうほどに、僕の心は波立っていた。僕の心に気象台があったなら、絶対波浪警報くらいは出ているはずだ。南海岸のサーファーが大挙して押し寄せるほどのビッグウェーブの到来である。
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