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高槻穂乃果なる黒髪の乙女と会う約束をしていた日曜日はマッハで訪れた。空は快晴。小包をもらってから四日後だ。この間の記憶は飛んでいた。ちゃんと仕事に行っていたのかも怪しいレベルだ。昨日の晩御飯に何を食べたか思い出せない感覚に近い。僕の中では、今や仕事すらどうでもいいものになっているということだろう。
昨日の夜は楽しみすぎて布団の中で何度も転げ回ったし、同じくらいの緊張に交互に襲われたせいで幾度も吐いた。最終的にはなんかオレンジ色の液体が出てきたところで気絶したらしく、便器を抱えたまま朝を迎えた。コンディションは最悪だ。目の下のくまなんてヴィジュアル系かと思うほどに濃いが、残念ながら十人並みの容姿なので、我ながらただの病人にしか見えない。あるいはゾンビ。
「この眼鏡のおかげでくまは結構隠れてくれたな。フレームが太くて助かった」
寝不足のせいか、外だというのに部屋にいる時と同じようにひとり言してしまった。なにしろ、待ち合わせ場所はJR名古屋駅の金時計前である。カップルなどには定番の待ち合わせ場所であり名所である金時計前には、当然たくさんの人がいる。だいたい全てがオシャレな、リア充と思われる人種ばかりだ。
ちょっと焦って視線を左右に配ったが、僕のひとり言を気にしている人はいないようだ。ぶっちゃけ素朴な出で立ちでこの場所から一人浮いちゃっている僕など、みんな興味は無いらしい。複雑な心境に陥りながらも、僕は胸を撫で下ろした。
その時である。
「ごめんなさい、志郎さん。お待たせしてしまって」
僕の目の前に、突如として女神が降臨した。
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