クオリア・コンバーター

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 金時計前の空気が明らかに変わった。さっきまでは無秩序にざわめいていたこの場が、しんと静まり返っている。この場にいる者全ての視線がこの女神様に注がれている。会話の途中だった者など、口を開けたままだった。男性だけではない。女性までもが彼女を見つめて息を飲んだ。老若男女、まるで時が止まってしまったかのように固まった。  え? 何、この空気? 「初めまして、高槻穂乃果です。今日はご無理言いましてすいません。ああ、でも、まるで夢のようです。こうして、志郎さんと直接会える日が来るなんて」  穂乃果さんは、そんな空気などまるで頓着しなかった。大勢の見守る中、穂乃果さんは満面の笑顔で僕に駆け寄り、手を取った。周りからは一斉に「はぁっ?」という、あからさまに疑問を吐き出す声が沸き起こる。冷たいのか鋭いのか、怒りからなのか恨めしさからなのか良く分からないが、みな一様に、訝しげに細めた目を僕に向けている。 「高槻さん、ごめん」 「え? きゃぅ」  痛い痛い、ホントに痛い。僕は視線によって痛覚を得るという初めての経験に恐怖しつつも、とにかく逃げなければという一心で穂乃果さんの手を引き走り出した。
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