1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「がはっ……あ……ぁぁ……ぁ……」
断末魔の叫び……いや、それは叫びにすらならず、呻き声となり、口から零れた。彼は喉を掻き毟りながら、彼女の上に重なるように崩れ落ちる。
発端は、彼女の言葉だった。
「もう終わりだね」
その瞬間、彼の思考は凍り付いた。それが氷解を始めると、次第に怒りとなり、殺意へと変わっていく。
彼女がDVDをセットし、ソファーに座ると、その背後から彼は刃物を持って近づいていった。
彼女もまた、彼の狂気に気付いていた。これは賭けだった。彼が用意したグラスをいつ使うか。悟られてはいけなかった。彼女は平常を装い、彼が来るのを待っていた。
二人は重なりあい、息絶える。暫くして声が掛かった。
「はい、カーット! 二人共良かったよー!!! 迫真の演技だ!」
安堵の空気が流れた。それから拍手が沸き起こる。この監督から一発でOKを貰えるなど、奇跡に等しいからだ。関係者全てに厳しく、特にアクターにはよりリアルさを求める事で有名な監督だった。しかし、これで全ての撮影を、無事終える事が出来た。スタッフの顔に笑顔が浮かぶ。
しかし二人は微塵も動く様子が無い。笑顔は戸惑いに変わり、安堵は不安に変わる。
「おい? もう終わったぞ?」
返事も反応もない二人に、周囲はざわめき始めた。そして……
何処かで悲鳴が上がった。
最初のコメントを投稿しよう!