1.ー不覚

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「驚かせちまってすまねぇ……。ちょっと道に迷っちまってさ」 両手を軽く上に挙げ、茂みから黒髪の青年が出てきた。 殺気を感じなかったため、ミスティは向けていた刃を引っ込める。 ーーでも、怪しい人に変わりはないよね……。 ここ三年間町中で人に出会うことはあっても、こんな木が()い茂る所ではなかったからーー。 だから彼女はナイフを握る手はそのままで、警戒心を薄めたくらいだ。 「オレ……セロって言うんだ。あんた、名前は」 片手で(ほお)をかきながら、彼は問いかけてきた。 「…………ミスティ、と言います」 正直にそう答えた。何故ならーー。 ーーこの人、嘘ついてない。 はっきり、そう分かったからだ。彼の鮮やかな紅色の瞳を視つめてその結論に至る。 ミスティが言葉を発すると、強い一陣の風が吹き抜ける。辺りの木々はざわめき、川の水面は波打つ。その風の強さに目蓋(まぶた)を閉じる刹那(せつな)。目の前の人ーーセロが今にも泣き出しそうな笑みを垣間(かいま)見た気がした。
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