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No.4『孤高のアメジスト』
「いつのことたったか覚えていないが私は死んでいた」
何気なく独り言を街中にある交差点で呟いた。
…残念ながら誰も『私』を認識してはいない
それもそのはず『私』は死んでいる
『過去』でも
『未来』でもなく
『現在進行形』で死んでいる
「退屈だーあー退屈だー」
空中に浮いて逆さまで世界を見るがあるのは人の後頭部だけ…
「あっヅラ発見」
また誰にも聞こえない独り言を呟いた。
結婚する予定だった。
今は無い
『死んでいる』から
家への帰り道で知らないお兄さんが『私』のお腹にプスリとナイフを滑らせその後、手早くばらされた体をスーツケースに詰め込まれて持って行くのを『幽霊になった私』は見送った。
「…退屈だなぁ」
それしか言えなかった。
…楽しみと言えばこうやって1日中人を観察するか『彼』から貰った『アメジスト』のペンダントを眺めることだけでそれ以外はない
寝ることも
食事をすることも
誰かと楽しくお喋りすることも
趣味も
好きでもない仕事に打ち込むことも
歳をとることも
何もかも失ってしまった。
ペンダントを見る
本物は知らないお兄さんが『私』の肉塊と共に持ち去ってしまったので今あるのはイメージを形にした『私』の一部でしかない
「『彼』は元気かな…?」
『私』がいなくなって『彼』がどうなったか心配だったが浮気性の性格を考えるともう新しい彼女がいるかもしれない
…何より見たらきっと後悔すると感じた。
いつもは不真面目な『彼』が
辛そうで
泣きそうな
そんな必死な顔で『私』を探し続けている姿を見たらきっと『何もできない幽霊』である『私』はあっけなく死んでしまったことを後悔して心が壊れてしまう
…それが
ただ、
ただ怖くて
今日も『私』は浮いている
「あー…退屈だなぁ……」
今日もアメジストが光っている
『拝み屋のお話しより』
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