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悲鳴。
若い女の甲高い悲鳴だ。
悲鳴。
少し年のいった女の悲鳴。
悲鳴。
耳につく子どもの悲鳴。
俺はヘッドホンを外して、スイッチを切った。
「どれも違うんだよなー。もっとこう…追いつめられた人間が絞り出すような背筋がゾクッとする悲鳴が欲しいんだよ」
俺の言葉に、音響担当の玉川が俯いた。
「すみません…」
そのオドオドとした態度は、いつものように俺を苛つかせる。
「謝って欲しいわけじゃなくてさ。わかるだろ?ホラー映画で悲鳴は、物凄い重要な要素なわけ。この最初の犠牲者があげる悲鳴が、この映画の成否を握っていると言っても過言じゃないんだよ。な、いい悲鳴を持って来てよ」
「はい…」
玉川は肩を落として部屋を出て行った。
俺はため息をついて、その背中を見送った。
「ったく…あいつはクビかな」
三日後、玉川からメールが届いた。
添付されていた音声データは求めていた最高の悲鳴だった。
俺は聴いた瞬間に、これだ!とガッツポーズをした。
映画は無事に完成。
観客は悲鳴に背筋を凍らせ、作品を絶賛した。
あれ以来、玉川は俺の前から姿を消した。
あの悲鳴の主が誰のものかは判らないままだが、俺は詮索しないことに決めていた。
理由は、映画には使わなかった悲鳴の後に続く音声にある。
あの悲鳴の後には、こんな声が続いていた。
「どうですか!監督!これこそ、あなたが欲しかった悲鳴でしょう!とてもリアルだ。実に生々しい悲鳴でしょう!ダメですか!?ダメならもっと集めますよ。悲鳴!悲鳴!はははっ!悲鳴!もっともっと集めますよ!」
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