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「あの~一応、作業は終了したんですけど……。」
「ですけど――って、作業中に何かあったんですか?」
私は、昨晩の虫が無数の這いずる状況を思い出しつつ、業者さんのその言葉を聞いた。
恐らく業者の方々は、昨日のあの数の虫を駆除する際に見たのだろう。
故の言い難そうな反応。
当然の事ながら私は、そう考えていた。
そして多分、この業者の人が私に対して次に言うであろう言葉は「何でこんなに害虫が増えるまで、ほっといたんですか?」であろう。
(それは私の方が聞きたいよ――。)
私は心の内側で、ボヤキながら業者の人の次なる言葉を待った。
だが、彼の口から出たのは予想外の一言だったのである。
「あの~……仕事頼んで頂いていて、こんな事を言うのも何なんですけど正直、うちらに駆除を頼む程の状況かな~と思いまして。」
「えっ……!?
どうゆう意味ですか??」
私は彼のその言葉の意味が分からず、思わず聞き返した。
どう考えても彼のその言葉は本来、出る筈の無い言葉だったからである。
そう……それは、あれだけの害虫を駆除したのならば絶対に出る筈の無い言葉であろう。
しかし……。
「いえ、害虫なんて殆んど居ませんでしたよ。
駆除したのは精々、蜘蛛が数匹とゴキブリ数匹、後は羽アリぐらいでしたかね?
正直、あのぐらいなら、ほっといても問題無かったんじゃないですか?」
「えっ――!!?
そんな筈は!?
それ何かの間違いじゃないですか??」
「いえ、屋根裏から軒下まで確認しましたが、我々が退治した以上の害虫なんて、いませんでしたよ?」
「えっ……??
そんな……そんな筈は……!
本当に、本当に居なかったんですか!!?」
「え…?
えぇ、さっきも言いましたが何度、確認してもお客様の言うような大量の虫なんていませんでしたよ?」
「そんな………。」
(あれは幻だったの??)
本当にあれは幻覚か何かだったのだろうか?
私は釈然しない思いを募らせながら、駆除料金を業者に支払い、その後ろ姿を見送った。
そして……再び、夜が訪れる。
あの恐怖の夜が…。
正直、再びあの夜を過ごす事が私は恐ろしくて堪らなかった。
だが、あれが現実なのか幻なのかを確かめる必要はある。
そして、突き止めねばならないのだ。
この悪夢が何故起こったのかを――。
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