メガネと僕

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バレンタインデーがやって来た。 クラスの女子が「義理チョコだよー」と男子にばらまいている、その男子の1人に僕がいた。ただ、高木は義理チョコさへ僕にくれなかった。 本命なんて、これまでもらったことはない。中学の時に付き合ってた彼女も、バレンタイン前に別れてしまった。 放課後、帰ろうとすると高木から携帯に連絡が入った。 「中庭に来てくれない?」 義理チョコなら教室で渡せばいい、と苛立ちを感じながらも中庭に向かうと高木が水色の包装紙に包まれた四角い箱を差し出した。 「これ、チョコ。あげるね」 彼女のほっぺたが赤く染まってる。話し方もいつもとは違う。でもメガネをしていないから、細かい表情が読み取れない。今何が起きてるのかさっぱり分からない。 「やまちゃんのこと、好きです。付き合ってくれませんか」 やっぱりさっぱり分からない。受け取った水色の箱を僕はじっと見つめながら、ぼそっと呟いた。 「遠藤と付き合ってるんじゃないの?」 「え?」 今度は彼女がさっぱり分からないという顔をし始めてるような気がする。今ここでメガネをかけたい気分だ。外から見たらおそらく僕らは間抜けな2人だ。しばらく無言が続くと、彼女が「あ」と先に沈黙を破った。 「もしかして遠藤くんといつも一緒にいるから?それは遠藤くんに相談されてたんだよ。遠藤くん山田っちのこと好きなんだって。山田っちって顔は可愛いのに話し方男の子みたいだよね。それがいいんだってさ。それで、山田っちってやまちゃんと仲良いでしょ。私がやまちゃんと仲良いから、何とか協力できるかなって。でもメガネしてない最近のやまちゃん、カッコ良すぎて話しかけづらかった」 全身の力がすーっと抜けていくのを感じた。 そして、今日の帰りにコンタクトレンズを買いに行こうと決意した。
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