――10章 あなたの声が聞きたくて

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◇  購買に行った帰りの事だった。角を曲がると突然聞こえてきた会話。 「久保倉先輩。お話があります。ちょっといいですか?」  あたしは“久保倉”って名前に敏感に反応して、思わず曲がりかけた角を元に戻った。特別棟と教室棟を繋ぐ渡り廊下に壁はなく、教室棟へ入るための扉があったが、そこは今開け放たれていた。あたしはその扉の影に隠れるとそっと覗き見する。  見覚えのある後姿が小柄な女の子の後に続いて階段を降りて行った。  一瞬見ただけなので判別は難しかったが、上靴の色が綾菜と同じ赤色ではない気がするような、そうでないような。とにかく同じ3年じゃない事だけは確かだ。  あたしは二人に見つからないように物陰に隠れながら足音を追いかけた。  1階の特別棟へ向かう途中にある建物には体育会系の部室が並んでいた。そこは人通りも少なく部室によってはあまり目立たないところだった。ウチの学校の格好の告白ポイント。
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