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「あの・・・久保倉先輩。私・・・1年の黛(まゆずみ)と言います。」
あたしは階段を降りてすぐの角から見つからないように様子を伺った。“黛”と名乗った女の子は小柄で華奢な女の子だ。色素の薄い髪の毛は廊下の端にある窓から差し込む光に透けて見えて金色に光って見えた。ふわふわの髪は華奢な体にマッチして、守ってあげたくなるような印象を強く放っていた。これが天然なら強敵だ。
あたしは何とも言えない胸の底をかき回されたような落ち着かない思いを抱いていた。遠目から見た印象で写真の中でしかよく知らない“美琴”さんに似ていた。1年前、湊がフラれて自棄になったあの日ちらりと見た“美琴”さんの印象に重なるのだ。
そんなことを思うのはいまだにあたしに自信がないからなのかもしれない。
階段を降りてすぐの曲がり角に身をひそめたあたしは気づかれないように覗き込んだ。湊は廊下の窓側に陣取り、彼女は部室の入り口側に立っていた。それぞれの横顔しか見えない。
彼女が発する言葉は想像がつくけど、湊からどんな発言が出るのか想像もつかない。
「あの・・・私、久保倉先輩のこと・・・入学したころからかっこいいなって思って・・・もし、よかったら付き合ってください。」
ベタだ・・・。
あたしは角ぎりぎりを覗き込んでいたが、一瞬、湊がこっちを見た。あたしは慌てて元の場所に戻る。
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