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ちなみに先頭に立ち雄太郎を嬲っている生徒は、野党のトップにあたる人物の孫だ。
彼の顔がはっきりとカメラに収められるよう、雄太郎は怯えたふりで体勢を変えた。そうとは知らない男子生徒は、獲物を逃さんとばかりに雄太郎の思惑通りの動きをみせた。
「逃げても無駄だぜ」
四つん這いで逃げる雄太郎の腰をつかみ、男子生徒はズボンのファスナーをおろした。
「やめて……!」
本当はやられたくない。しかし父親のため、いや、オメガである自分の存在意義のため、雄太郎は体を差し出す覚悟を決めた。
しかしその瞬間、視界の隅で、教室のドアが開くのが見えた。
「おい、そこまでだ。彼を離せ」
生真面目そうな生徒が、無表情で雄太郎達を見ている。
「なんだよ、恩田。仲間に入るかあ?」
恩田と呼ばれた生徒は、心底嫌そうに顔を背けた。
「誰がそんな愚かなことするか。それより、とっとと彼を解放しろ。──生徒会長命令だ」
生徒会長と聞いた途端、雄太郎を囲んでいた生徒は、蜘蛛の子を散らすように教室から出ていった。最後まで残ったのは野党トップの孫。しかし結局彼も、渋々という態度で出口に向かう。
「生徒会長の犬が……!」
すれ違いざま、生徒は恩田を罵った。
そんな憎まれ口を気にする様子もなく、恩田は雄太郎に近づく。
「大丈夫か?」
「はあ……」
とんだ邪魔が入ったものだ、と苦々しく思ったが、行為の最後までいかなくても十分脅しの材料は撮れたはずだ。
雄太郎は散らばった衣類を身につけ、教室から出ようとした。
「待って、三崎雄太郎。君は今日から生徒会で保護することとなった」
「は? 生徒会?」
入学前、祐太朗は学園の全生徒の個人情報をたたき込まれた。現在の生徒会長は、総理大臣に最も近い家系だ。近づいておいて損はないだろう。
そして目の前の恩田という生徒。彼の家は代々議員秘書を生業としている。恩田が「犬」と罵られる意味を理解した──。
「ヤバい……。コミック一冊じゃ無理だ」
大長編、またはシリーズ化の予感に、奏は身悶えた。
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