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第2軽蔑
「なぁ、メールアドレス教えてくれへん?からメール送るから」
優しい声で彼は言った。
「えっ?覚えられるの?」
「天才やから。俺」
戸惑いながら私はメールアドレスを教えた。
藤田君は覚えたのか、まだ配達の郵便物が残っているらしく、配達先に急いで、砂ぼこりをたてて行ってしまった。私はそれきりメールアドレスのことはすっかり忘れてしまった。
私は夕方5時になると、土手沿いの道を散歩するふりをして、すぐちかくの中学校の体育館へ向かう。
娘の通っていた中学校にだ。体育館では女子バレー部が部活動の練習中だった。
ボールが床を打つ音を聞くと胸がドキドキしてしまう。
私は横目で体育館をチラリと覗き見る。
いた!先生だ!今日も先生に会えた!
先生は背は高くないけれど、華奢な体つきではなかった。いつもの黒のジャージに縁なしの眼鏡。彼はうつむき加減で少し右肩を落として歩くクセがあるから遠くから見てもすぐにわかる。娘も中学生の時はバレー部だった。私は練習を観に行く時も試合を応援する時も先生を見ていた。
先生に会うことは私の全てであり、生き甲斐であった。
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