第3話 よみがえった記憶

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 影の話を持ち出さなくてもこれなら話が通じるのではないかと考えた。それに普段いくら威張ってようが教師は教師だ。困ってる生徒の手を振り払うような真似はしないはずだと信じた。  滝沢が妙なことを言い出した。  「最近、そういうのが流行ってるみたいだな」  「何の話ですか」  「先生の知り合いで真面目一筋だったやつが突然ギャンブル狂いになったり、ずっと家に引きこもってたやつが家を出るどころかいつのまにか外国で仕事を見つけて住み始めたり。長内が暴れ回るのを見たとき、ああこいつもかって思った」  「たまたまですよ」  「そうだろうけどな」  滝沢は梓の処分が軽いものになるように教頭に話すと約束してくれた。梓とおれは何度も何度も滝沢にお礼を言った。  「理科の木島先生に長内の話をしてみるといい。正直、何を考えてるか分からない先生でおれは好きじゃないんだが、彼がよく話している、影が人を乗っ取るという話はもしかすると長内の助けになるかもしれない」  最後に滝沢がそんなことを言った。梓だけじゃない。おれだって自分の体を影に乗っ取られそうになった。梓やおれだけじゃなかったのか? この街で、いやこの国で、この星で、密かにしかし大規模に何か恐ろしいことが起こりつつあることを、おれと梓は漠然と感じていた。
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