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校舎をうろうろして、学校にいてはいけない梓が見つかるのはまずい。今日はとりあえず帰って、木島と話をするのは明日にした。
「お母さんと滝沢先生には謝ったけど、不良の先輩たちにも謝った方がいいよね」
「ケンカ売ってきたのは向こうだし、ほっとけばいいよ。どうせあの人たちはいつか痛い目に遭う運命だったと思う」
梓を家まで送り、滝沢に許してもらったと告げると、
「それなら退学させられることはなさそうね」
と歩は笑った。いや、そう告げる前からニコニコ笑っていたような気もする。何かいいことあったのだろうか。
昼頃、梓の帰宅を彼女の両親が待ち構えていたように、今度はおれの帰宅をおれの両親が待ち構えていた。
ダイニングキッチンのテーブルを挟んで座る父と母。それぞれおれに用があるようだが、違う用件らしい。父は怒り、母は笑顔。
父から口火を切った。
「担任の先生から電話があった。おまえ今日無断で学校を欠席したらしいな。弁解があるなら聞こうか」
梓のことで頭がいっぱいで自分のことをすっかり忘れていた。曲がったことが嫌いな父は言い訳にならない言い訳をすると余計怒り出す。黙っているしかなかった。
「同じこと会社でやってみろ。たった一回でもクビだ。そんな甘えた気持ちでいるんなら退学して働いてみるか」
梓の退学がなんとかなったと思ったら、自分の尻に火がついた。われながら馬鹿すぎて泣ける!
「お父さん、その辺のところは梓ちゃんのお母さんに聞いてるから」
母が相変わらずニヤニヤしている。父にガミガミ言われるのは嫌だが、母にニヤニヤされるのは気持ち悪くてもっと嫌だ。
「梓ちゃんに何かあったのか」
「知らないあいだに文と付き合ってたんですって」
「そうか、意外……。いや、いつもいっしょにいるからそうでもないか」
曲がったことが嫌いな以上に、純情で恋愛話が苦手な父が急にしどろもどろになった。
「つきあうなとは言わないがおまえは男だ。梓ちゃんを泣かせるような真似だけはするなよ」
「それがね、もう泣かせるような真似をしちゃったんだって。梓ちゃんが本気で嫌がれば文くらい瞬殺できるはずだけど、惚れた弱みか梓ちゃんも全部許しちゃったみたいで」
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