第4話 終末のレミング

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 敵だったか? 思わず身構えるおれ。  「心配しなくていい。君の体を乗っ取ろうとしている者と僕は無関係だから、僕が彼に味方することはない」  テレビではまた大増税のニュースが始まった。街の声は反対一色ではなく、緊急世論調査の結果では賛成と反対の割合は拮抗しているという。  「影に狙われてるのはおれだけじゃなかったんですね」  「ああ。すべての人間が狙われている。既にもうかなりの割合の人間が影に乗っ取られたと見ている」  「影は結局何がしたいんですか。おれの影は、〈弱いおれを見ていられないから入れ替わるんだ〉と言いました。近頃の人間が弱くなったから、影に付け込まれるんですか」  「それは違うな。影が人を乗っ取るのは人類を滅ぼすためだ。生き残るために数をギリギリまで減らすためだ。増えすぎた動物がどうなるか知ってるかい? レミングというネズミは増えすぎると海に飛び込んで集団自殺する。逆に、海のクジラは群れごと陸に乗り上げる」  「でも、影に乗っ取られて人生がおかしくなった人ばかりじゃないですよね? 乗っ取られる前より幸せになった人もいますよね? 体育の滝沢先生が、引きこもりだった人が急に海外に出てばりばり仕事するようになった、という例を教えてくれました」  「そりゃ例外がないと気づかれてしまうからね。みんながおかしいと気がつくときは、もう手遅れなんだ」  テレビの中で国会議員たちが口をそろえて万歳と叫んでいる。増税法案が可決されたのかと思ったがそうではなく、例の総理がこれからはわが国も核兵器を持つべきだと宣言して賛成する議員たちが万歳と叫んでいるのだ。  「日本は滅びますか」  「違う。世界が滅ぶんだ。僕たちはまさに終末のレミングなんだ」  何が真実か分からなかった。木島の意見はただのデタラメでしかないかもしれない。世界がこれからどうなるのか? おれは正解が知りたかった。
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