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自分の家に帰る前に梓の家に寄った。相変わらず歩がニコニコしている。
「もう息子みたいなものだから、他人行儀に挨拶しないで勝手に上がってってもいいのよ」
そういうわけにもいかないと思うんですが。親しき仲にも礼儀あり、とも言うし……。
梓は二階の彼女の部屋にいた。足音だけでおれだと分かったらしく部屋に入れてくれた。ライトグリーンのカーテンは開け放たれていた。
梓の着ている白い薄手のセーターがまぶしく見える。ふと思ったが梓の部屋に入るのは久しぶりだ。小さい頃はよく入った。でも、中学生になる頃から、ただの幼なじみというだけでは梓の部屋に行きづらくなっていた。
畳の上に隣り合って座る。
「期間は分からないけど、登校謹慎ということで明日から登校できることになった。学校では別室に缶詰だから教室には入れないけど。軽い処分で済んだのは文君のおかげだよ」
「よかった」
梓と二回目のキスをした。
「朝の稽古で助けてくれてありがとな。おれの方こそ感謝してる」
「そんなこと……」
しゃべるとき以外ずっとキスをしていた。服の上から胸を触っても拒まれない。
「最後までしてもいい?」
「じゃあ、布団を……」
武芸家の家らしく、梓のうちもおれのうちも純和風の造りで畳の部屋ばかり。当然ベッドなどない。
押し入れから敷布団を取り出して、部屋の真ん中に広げた。梓は自分から敷布団の上に移動して、また目を閉じた。
おれは梓とついに結ばれることを期待しながらも、反対のことを、つまり歩や敬承が邪魔しにくることも一方で期待していた。でも、誰も来ない。誰も邪魔しに来ないが、それ以上はあきらめなければならなかった。道路を挟んだおれの家の二階のおれの部屋の窓際で、母と歩が並んでこっちをガン見しているのに気づいたから。でも、正直おれはほっとした。
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