第1話 無敵の梓

3/8
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
 その日の梓はおれのよく知るいつもの梓だった。でも、次の日の梓はおれの知らない梓だった。  おれたちの家は道路を挟んだ向かい合わせに建っている。だから学校に行くときも帰るときもいっしょ。それは小学校からずっとそうだ。  朝、いつものように迎えに来た梓を見て驚いた。  「ちゃ、茶髪?」  「似合う?」  確かに似合っていた。悪くないと思った。でも、その髪で学校に行ったら家に帰されるんじゃないの?  「よく君のお父さんが許したね」  「まだ会ってない。お父さん、朝起きるの遅いから。お母さんがなんかぎゃあぎゃあ言っててうるさいから、胸に突きやって黙らしたけど」  大丈夫なのか、それ?  「もういいよ。さっさと行こ!」  じれったいと言わんばかりにおれの手を引く梓。これ以上じれさせると、おれまで突きを食らいそうだ。訳が分からないまま、おとなしくおれも学校に向かう。  学校の校門前に立っている教師たちに見られたら、その場で家に帰されてしまう。そう心配していたが、梓の髪に腹を立てたのは教師だけではなかった。  「おい、そこの一年」  商店街の途中で声を掛けられた。声を掛けてきたのは三年の女子四人組。教師たちが持て余す不良たちだ。髪こそ黒いが、登校中タバコを吸ってるのを何度か見たことがある。授業をエスケープして学校を出て行くのを見たと何日か前に梓に聞いたこともある。  「おまえ、昨日まで髪黒かったよな。高校デビューかよ。あたしらでさえ髪は黒いままだってのに。ちょっとツラ貸しな」  「いいよ」  梓は躊躇なく四人組についていっしょにどこかへと向かう。  「とりあえず謝ろう。いったん家に帰って髪を黒くしてまた学校に行った方がいいと思う」  「は? やだよ」  おれの提案はたった一秒で却下された。四人組は来た道を戻り、商店街に面した空き地に入っていく。ガソリンスタンドがつぶれて更地になった場所。梓も空き地に入った。おれも仕方なく後に続いた。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!