人の恋しき

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「んー」と微かに声を洩らした弘人はそれでも起きない。だから、指先を髪から離す事が出来なくなった。  何度も弘人の髪を撫でながら、あの人もよくこんな風に髪を撫でてくれたな、と思い出す。どんな事を思いながら撫でてくれていたのか と、手の動きを真似て撫でてみたが、やはりあの人の心を覗く事は出来なかった。 「うおッ!」  突然弘人が飛び起きる。慌てて手を引っ込めると、弘人は俺を見て「携帯」と一言伝えた。そしてズボンのポケットから携帯を取り出し相手を確認すると、すぐに耳へとあてた。 「……えっ、花火?」  うん、うん、と小声でしゃべっていた弘人が、突然大声をあげる。うそ、マジで? と、相手に何かを確認している。  俺はそんな弘人を見遣りながら、夏休みの直前に行った花火大会の事を思い出していた。  あの日。俺は花火大会に向かう電車の中で、弘人に執着するのはもうやめにしよう、と心に決めていた。それは、相沢の視線にイラつい た理由が解ったから。  ――あれは、『嫉妬』だったんだと。
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