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俺が手を離せば、海へ真っ逆さま。 ここ一番のピンチ。 …だが、二人は焦った顔をせず、ただ無表情で俺を見ていた。 …それどころか二人してユニフォームを脱ぎ、やる気に溢れている。 …さっきはあれほど焦っていたのに。 …なぜだ? 「…おーい、蒼依ー?花音ヤバイよ?どうすんの?」 「分かってる。黙ってろ。」 「怒られちった。こりゃ失礼。」 (…くっ!…ブレイン橋本!) 必死で考えているとき、この飄々とした間延び発言は、俺の思考遮断が目的だ。 案の定、視界の奥でクスクス笑っている橋本が見える。 一瞬動揺した自分。 しかし隙は突かれずにいた。 こういった心理戦は得意分野だが、相手が悪すぎる。 ならば、考えるだけ無駄だ。 頭を切り替え、行動へ移す。 移す、と言っても、手を離すだけ。 「……!!!」 「…残念。お前の敗けだ。」 俺が手を離した瞬間、 倉原が軽くジャンプした瞬間、 大崎が身体を回転させた瞬間、 それが見事に重なった。 すべては一瞬。 ジャンプした倉原の両靴底に、回転し勢いのついた大崎の靴底がピタリと合う。 その反動と膝の屈伸を利用し、すごい勢いで文字通り飛んできた倉原。 それに気を取られていると、大崎が目と鼻の先にいた。 軽く胸を押されただけで俺はバランスを崩し、身体は海へと投げ出された。
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