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事は単純明快。 テグスはピンと張れば凶器になり、緩めばただの糸でしかない。 一本なら切れてしまうが、二本、三本なら切れずに強度を増す。 飛んだ倉原は、真っ直ぐ花音へ。 俺が目を倉原に向けたとき、倉原の身体を取り巻くようにテグスが光を反射した。 つまり、大崎が距離を詰めたために生じたテグスの余裕分を倉原の身体に巻いたんだ。 その間に倉原は捨て身で花音を追って海へ飛び込み、花音に手が届き抱き締める。 脱いだユニフォームは、手や身体が傷付かないよう別の場所を巻くためのもの。 …絶対的な信頼だ。 彼女なら花音に手が届く。 彼なら花音も自分も助けてくれる。 この二人は絶対に死なない。 会話など一切なかったのに、まるで前から作戦を考えていたような動きだ。 それを傍観していた2主任も、当たり前のように動かなかった。 「「おーーい!死ぬなよ!」」 「きゃははは!ブーン!ブーン!」 「…暢気だな…花音は…まったく。」 「強烈な飛行機だったよなー!」 落ちていく身体。 空を仰ぎ、仕留められなかったターゲットとその仲間を見上げた。 大崎は娘と妻を抱き締めながら叫び、2主任も顔を覗かせた。 敵を心配してなのか?それとも…… 「…完敗だな。」 小さく呟くと頭を下へ向け、そのまま海へ飛び込んだ。
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